舞台は今からおよそ90年前の、ブラジルのリオデジャネイロ近郊の町で、貧しい家庭に生まれ育った五歳の少年ゼゼーが主人公。
とんでもない悪戯をやらかすために、家庭でも、地域でも、どうしようもない悪ガキとして扱われているゼゼー。けれど、他の子供達よりも聡い頭と敏い心を持っているゼゼーは、貧しさから幼い子供に辛く当たる家族や、理解してくれない町の大人達に傷つけられながらも、小さなオレンジの木と、温かい心を持った大人の親友、優しい姉に見守られながら成長していきます。
ブラジルでは誰もが知ってる有名な作品で、アメリカ、ラテンアメリカ、ヨーロッパの国々、韓国、中国、トルコ、タイなどで翻訳出版され、数多くのTVドラマ、映画、演劇にもなっているそうです。
日本でも昔に「わんぱく天使」という題名で英訳→和訳されたそうですが、原書からの翻訳出版は今回のこの本が初めてだそうで、出版を記念するイベントが駐日ブラジル大使館で行われていたと知りました。
訳者のあとがきに、ブラジル人の心に深く響く言葉として次の二つが紹介されています。
『サウダージ』…懐かしい、いなくて寂しいという哀切感をもつ
『テルヌーラ』…温もり、優しさ、思いやりという抱擁感に満ちている
「サウダージ」というのは、私と同じ世代の人なら、ポルノグラフィティの代表曲の名としてご存じの方も多いかと思いますが。「テルヌーラ」という言葉は、私は本書で初めて知りました。
貧困も家族の問題も大人達の無理解も、何もかも全てを解決してくれるような万能策は、90年経った今でも有り得ないけれど。子供たちの中に宿る可能性は、どんな時でも残されていると、そう信じたくなるような物語です。
~鹿野ユウキさんより
※読書好きのための交流サイト「読書メーター」のユーザーでもある鹿野ユウキさん。
「ぼくのオレンジの木」を通じて訳者からの押しかけ交流が実現し、応えていただいています。
▼「読書メーター」ホームページから、鹿野ユウキさんのコメントです。
「ブラジル」と聞いて、「地球の裏側の遠い国」「サッカー」とだけ思い浮かべる日本人は多いと思う。
私もそうだが、偶然、東京スカパラダイスオーケストラが、
ブラジルで貧しい地区に住む子供たちと交流したというニュースを見た頃に読んだこともあり、
貧困家庭に育つ主人公の悩みや苦しみと、それをひとときでも忘れさせ笑顔に変えてくれる親友との交流の物語が、勝手ながらとても身近なものに感じられた。
90年前の物語といっても、貧困や家庭の問題は今も未解決だし、
子供達に宿る可能性だって今と、日本とおんなじだと思う。